お葬式の仕事をしている私が、実際に体験した話です。
ある日、自分のお葬式について相談したい、といって事務所にいらっしゃった高齢の女性いました。
その女性が最初の相談で持参してきたのが、エンディングノートです。
今もブームが続いているエンディングノートなので、一度は本屋で見かけたことがあるという人も多いと思います。
その方も、本屋に行って自分で選んだというエンディングノートを持ってきていました。
「自分のお葬式だから、派手にはしてほしくないけど、それなりにやってほしいことがある」
という女性のエンディングノートは、予算や演出、流してほしい曲までしっかりと書き込まれていました。
私もお葬式の専門家として、その女性の希望を聞きながら、
「これはこちらがいいですよ」とか「こうしたら予算を抑えることが出来ますね」など、
数日かけていろいろとアドバイスをさせていただきました。
でも、やはり気になっていたのが、いつも一人で相談にいらっしゃるということでした。
お葬式の話ではありますが、まだまだ元気な方でしたし、
「こちらでお葬式の相談していることを話したらね…」などと、雑談中にも家族の話題が出ていたので、
「一緒に話を聞いていたほうが、家族としても安心するのでは」と思っていました。
まして、かなり細かな点までお葬式の希望がある方だったので、思い切って何回目かの相談のときに、
「ご家族とご一緒にいらしてみてはいかがですか」と話してみました。
すると、「一緒に話を聞きにいきたい、って子どもたちも言うけれど、
子どもたちが話に入ってきたら、私のしたいようにできなくなってしまうでしょ?
それに、エンディングノートとして遺言残しておくんだから、大丈夫よ」という返事が返ってきました。
要するに、ちゃんと遺言書のつもりでエンディングノートを書いている、ということなんですね。
でも、エンディングノートというのは、正式な遺言書としての効力はありません。
お葬式に関する希望としてエンディングノートを書いたとしても、
それがあるから、遺族はそのとおりにしなければならないというわけではありません。
実際にお葬式をすることになったとき、本人の希望がはっきりしておいたほうが、
残される家族の精神的な負担は少なくなるということはいえます。
でも、一番の問題は、家族が本人からエンディングノートがあることを知らされていなければ、
いくら本人が綿密に計画を立てていたとしても、まったく意味がなくなってしまうということです。
結局、それから数年たってその女性が亡くなり、家族からお葬式の依頼を受けました。
打ち合わせのときに家族に尋ねてみたのですが、
やはりエンディングノートの存在は知らされていなかったそうです。
お葬式当日まで結局見つからず、後日、遺品を整理している時に見つかったそうです。
自分の最後について、自分の希望を直接書き残すことが出来るエンディングノート。
人生の生理整頓のためには、わかりやすく整理をすることが出来るとてもよいものだと思います。
でも、本当にそこに書いたことを残す家族に伝えたいのならば、
やはりきちんと伝えておくことが一番大切だと思います。
もしも、お葬式についてもはっきりとした希望があるのなら、
遺言書としてきちんとした形式で残しておくほうが、残る家族のためにもなるのではないかと思います。